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ケンヂのきもち

まずは自分を知らなきゃね~

少年時代 4

ケンヂの物語初稿

 

(つづき)

 

神社の下の広場は真っ暗で、当然だが人気が無かった。目を凝らしてオッカンを探し広場の隅や木の陰を覗いたが、人の気配は感じられなかった。懐中電灯で照らし、隅々まで探した。

「オッカン起きれなかったのかなぁ・・・」

急に一人で暗闇の中にいる事が怖くなってきた。夏の生ぬるい空気に鳥肌が立った。

信用していたグンボもオッカンも来なかったという絶望は、ケンヂの頭から肩に重くのしかかり、ぐいと後ろに引き倒した・・・思わずその場にしりもちをついた・・・

湿気た土の妙な感触が嫌だった・・・

カサカサ虫が動いてるような音がした・・・

ケンヂは今にも泣き出しそうだった。

家から神社まで10分程の距離だが、ここにたどり着くまでの10分はいつものそれとは違い、長い長い道のり・・・

これから一人で帰るということはとてつもなく絶望の闇のなかで、家は遥か彼方に思えた・・・

ケンヂが途方にくれていると、鳥居から続く階段の先の闇に一瞬何かオレンジ色に光るものが見えた。

ケンヂは立ち上がり、お尻をはたいて階段を駆け上がった。

階段を登りきった先の境内の右脇から山に続く場所に、オッカンがいた。オッカンは懐中電灯と虫篭を持ちリュックを背負っていて、ケンヂを見て「早くついたから先に登ってた」と言い、ニコリと笑った。

グンボが来なかったことを知り、「あれだけ約束したのに、ゆるせん!」と怒っていたが、すぐにいつものオッカンに戻り「ヤニ蜜のでるめぼしい木はわかってるから、そこから探そう」と山に入っていった。ケンヂはさっきまで泣きそうだったことを悟られまいと下を向いて後を追った・・・

夜明け前の山はケンヂの想像以上真っ暗だった。懐中電灯の照らす弱弱しいオレンジ色の光は、すぐ前にある木々で遮られてしまい、その木の影と漆黒の暗闇が混ざり、いつも通っていた何気ない当たり前の山道を覆い隠し、どこを進んでいるのかわからなくした。それでも数箇所のヤニ蜜ポイントにたどり着けたが、蝶やカナブン、ハチしかいなかった。

そのまま暗闇の山中を以前作った秘密基地目指して進んだ。

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オッカンの後を追いながら、もはやどこを進んでいるのかわからないまま随分歩き続けた。寄って来る蚊や蛾と格闘しながら見失しなうまいと足場の悪い山中を急いだ。

その時突然大きな羽音をたてて、大きなカマキリムシのようなものがオッカンとケンヂがいる方をめがけて飛んできた。それは通常見るカマキリより遥かに大きくこちらに向かって飛んでくるので、驚き、二人は慌てふためき逃げ回った。闇雲に見えない闇を走り、木にぶつかり崖のようなところを二人は滑り落ちた・・・

辺りは夜が明け始め、漆黒の闇は薄暗い朝を迎えた・・・

ケンヂ達が滑り止ったのは45センチほどにそろえて笹を打ち込み作った柵だった。柵の下は急な崖になっていて数メートル下に民家の屋根が見えた。柵を乗り越えて落ちたら、ケンヂ達は助からなかっただろう・・・

ケンヂ達は滑り落ちた崖を登り神社に戻り石段を降りた。

その間二人はほとんどしゃべらなかった・・・しゃべれなかったのだ。

オッカンを家まで送り、簡単な挨拶をかわし、呆然としたまま家に向かった。もうすっかり夜は明けていた・・・

どろどろに汚れて気の抜けたまま家に着くと、玄関前に母が険しい顔をして立っていた。

散々怒られたはずなのだが、まだ呆然さめやら無いままだったので、怒られた時の記憶が無い。

 

グンボとは5年生のクラス分けで別々になった。

6年生のある日、休憩時間にプリントを隣のクラスに持っていくよう頼まれてそれを持って行った。プリントを渡して、グンボが座って本を読んでいるのが見えたので

「グンボー久しぶり~」と近づき、いつもしていたように、グンボの首に手を絡めた・・・

するとこのクラスで柔道を習っているUくんがいきなりケンヂの腕をつかみ背負い投げをした。

投げ飛ばされ馬乗りになられた。これが三度目の馬乗り事件だ。

「よそのクラス来てなにいじめよんや~」

馬乗りで身動きが取れなかった。

ケンヂはグンボの方を向き「いじめとんじゃないよな~?」といったが、グンボはそっぽを向いたままだった・・・

休憩の終わりを告げるチャイムがなり、Uくんはケンヂから離れた。ケンヂはグンボの行動のわけがわからないまま・・・クラスに戻った・・・

 

 

 

小学生のころのケンヂは足が速くスポーツは大体何でもこなした。

活躍できるので、運動会が大好きだった。小学1年生の時から5年生までクラス代表のリレー選手をしていた。5年生の時膝を怪我してしまい、それ以降は早く走るのが怖くなり手を抜いて走っていた。

6年生の運動会は、応援団副団長に選ばれ、特に気合が入っていた。

5・6年生男子の行う騎馬戦が、運動会最大の見せ場であり、最後の種目だった。この小学校の騎馬戦は最初に5分間落としあい、騎馬の崩しあいがあり、そこで残った騎馬がハチマキを奪い合う一騎打ちを行う・・・

ケンヂは体重が軽かったし、運動能力が高かったので大将から数えて4番目の騎馬の上に乗っていた。大将騎馬の方から大きい順に並び、一騎打ちは低い騎馬から順に勝ち抜き戦を戦う。

予行練習ではケンヂはいつも3騎馬勝ち抜きで、4騎馬目のUくんが上に乗る騎馬に負けていた。どうしてもUくんには負けたくなかった。

 

いよいよ本番が始まった。落としあいは無理に仕掛けず、いつも通り乗り切りった。

一騎打ちの3番手だった。味方の1番手2番手が練習と違いあっさりハチマキとられてすぐに順番が回ってきた。

ケンヂは4騎馬連続で勝ち抜いた。いつも勝っている相手だ。

5騎馬目に勝てないUの騎馬が来た・・・かなり激しい攻防だった。

攻防の末、初めてケンヂはUくんのハチマキを取った。

その後も奇跡的に、7騎馬勝ち抜き・・・大将騎馬まで来た。

われんばかりの声援が聞こえてきた・・・

大将騎馬とは大人と子供位のガタイの違いがあった。

一騎打ちが始まり、力でねじ伏せられ・・・完敗・・・

でもその年のケンヂは、運動会一のヒーローだった。

運動会の後 Uくんが来て

「強かったね~負けたよ」

と爽やかに言って来て握手をした。

もともとUくんは爽やかな奴なんだ。

 

笑える話だが、運動会後、同級生の女子にはモテ無かったが、下級生女子にケンヂファンクラブが出来て取り囲まれたり追いかけられたりした。一生分のモテ期が来たのではないかと思うほどだった。(違いない・・)

バレンタインでチョコレートなんて今までもらった事が無かったのに、その年は紙袋いっぱいになるほどもらった。