読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ケンヂのきもち

まずは自分を知らなきゃね~

ケンヂの物語  少年時代 後編 初稿 (後編3)

(後編3)

 

 

(つづき)

その日、ケンヂは交換日記を前にして書き倦んでいた。

Mさんのことをどう書けばいいのか・・・

別に正直にあったことをこと書く必要もないのだが、Mさんのことを書かずにSさんと今のまま交換日記をするわけにもいかないし、Mさんと交際しながら他の女の子と交換日記を続けるというのもMさんに悪い。

結局悩みに悩んだ末・・・

 

 【中学校で初めての友だちSさん

交換日記は最後だけど

Sさんはおれのことたくさん知ってくれている大事な友だち

あいかわらずおとなしいし人見知りだけど

勇気を出して、日記に書いていたように普通に話せば

Sさんならたくさん友だちできます

応援してます!】      

 

 

なんども書き直しながら書いたけど、Sさんがケンヂに対して『友だち以上の思い』を持っていたなら『別れ』のようになってしまう。

このノートを渡す前に、直接SさんにMさんのことを話さなければならない。

どうしていいのかわからないまま、ケンヂは翌朝を迎えた。

 

翌日の日曜日、Mさんの提案で広島市内の中心部にある県立中央図書館にいって慰霊執行委員の原稿のまとめをすることになっていた。

学校で十分済む作業だったが・・・要するにこれはデートなわけだ。

ケンヂにとってもMさんにとってもこれは初デートだった。

朝バス停でMさんと待ち合わせ、一緒に広島の中心部に向かった。

図書館からは遠かったけど、市内一の繁華街である本通りでバスを降りた。

本通にはもう人がたくさんいた。

話しながら並んで歩いていると、Mさんがいきなりケンヂの腕に手を回してきた。

ケンヂはドキドキだった。自分の心臓の音がMさんに聞こえるのではないかと心配した。Mさんはケンヂの腕をぐいぐい引っ張りながら、いろんな店にケンヂをつれて歩いた。ケンヂは真っ赤になったまま、楽しい時間を過ごした。

歩きつかれたので『アンデルセン』というパン屋さんがやっている店に入り休憩することにした。『アンデルセン』は爆心地である『原爆ドーム』に近く、被爆した旧帝国銀行の建物を買い取り改装して店にしていた。地下2階、地上8階の北欧を基調としたおしゃれな建物で、慰霊執行委員の原稿まとめで来たのだからと言うことでこの店にした。ケンヂは初めて入ったが、中はパンの良い香りに包まれていた。

2階にレストランがあり、そこでパンとミックスジュースを注文して食べながら原稿まとめをした。1時間くらいするとランチ目当ての客でレストランはいっぱいになってきたので、ケンヂ達は店をでて図書館に向かった。

原稿まとめを終え、帰りのバス停まで向かう途中、Mさんがケンヂの手を握ってきた。

ケンヂはドキドキして動悸とめまいで倒れそうだった。手のひらは汗ばみMさんの心臓の音が聞こえてくるようだった。Mさんも真っ赤になって嬉しそうに下を向いていた。冷たい掌だった。

舞い上がって倒れそうになりながら、女の子と腕を組んだり手を握るだけでこんなにもドキドキするもんなんだ・・とケンヂは思った。

 

 

翌日、昨日とは違い、暗い思いがケンヂに圧し掛かっていた。

今日Sさんに伝えないといけない。伝えた後あのノートを渡さなければならない。

 学校で人がいない時にSさんと話をするのは中々難しいので、学校に行く途中朝Sさんの家に寄ることにした。Sさんの家は学校のすぐ近くだった。

ケンヂもSさんもいつも交換日記を朝一で互いの机に入れるために誰よりも早く学校に行っていたけど、最近は自分のが渡す日でない日もお互い早く学校に着いてたので 直接渡すことの方が多かった。家の前で待っていると、Sさんが出てきた。

 「おはよう」ケンヂはうまく作れない笑顔でSさんに声をかけた。

「あ、おはよう」パッと笑顔になりすぐに恥ずかしそうな表情に変わったSさんが、小さな声で挨拶した。

夏休み目前のはり付くような蒸し暑い朝だった。一緒に並んで学校に向かいゆっくりと歩いていたが、彼女の家から学校はすぐなので、学校とは反対方向にある公園にSさんを誘った。

「Sさん、一昨日ね、え、え、Mさんから告白されちゃった・・・」

Sさんははっとした顔でケンヂの方を向いた。

「おれもMさんのこと、す、す好きなんだ・・・」

ケンヂは真っ赤になっていた。

呆然としているSさんに交換日記を渡した。

「お、おれ、Sさんのこと、大事な友達だと思ってる・・・」と言ったところで呆然としたままケンヂを見つめるSさんの目から涙がぽろぽろ落ちてきた。

呆然と両手でノートを持ったまま、Sさんの目からは涙が止まらず流れ落ちる。

やはりSさんは、友だち以上の感情でおれを思っていたんだ・・・

優しくか弱く壊れてしまいそうなSさんを傷つけてしまった・・・

「ごめん・・泣かないで・・・」

Sさんは嗚咽のような声を出しながら泣いていた。涙が止まらない。

想定外にもケンヂも目から涙が落ちてきた。

あれ?

涙が止まらない・・・

あれ?あれ?

公園のベンチに腰掛けさせ横に並んで座った。

Sさんへの思いがどんどん強くなってくる・・・日記を家で書いてたときのこと、日記に書いたこと、書いてあったことが思い出される・・・

友だち以上の思いがあることに、ケンヂはその時初めて気がついたのだった。

とても愛おしい思いがこみ上げてくる・・・

自然にSさんの頭を撫でながら、ケンヂは

「おれ、やっぱりSさんのこと大好き・・・みたい・・・」

「今日Mさんに断って謝るよ・・・」

Sさんはケンヂの肩に頭をあずけ嬉しそうな表情に変わり、目を瞑り静かに泣いていた・・・

Sさんの髪からリンスの甘い香りがした・・・

ケンヂの涙はもう止まってた。