ケンヂのきもち

まずは自分を知らなきゃね~

ケンヂの物語   少年時代 後編 初稿(後編4)

 

(後編4)

 

 

 

 (つづき)

 扉を開けクラスに入ると数人の女子がすでに登校してきていた。その中にMさんもいた。

Mさんは「おはよう」と言いにこにこしながらケンヂに近づいて来る。

ケンヂは「おはよう」と言い下を向いた。Mさんの顔を見ることができなかった。

Mさんはケンヂの顔を覗き込んだ。

「どうしたの?目が充血してるよ?」

ケンヂは「なんでもないよ」とぶっきらぼうに言い、席に向かった。

ケンヂに続いて俯いて教室に入ってきたSさんを見て、Mさんはケンヂが自分たちのことを話したんだと気がついた。Sさんがケンヂに友だち以上の思いを持っていたことも察した。なぜなら、なによりもSさんの目はケンヂよりも真っ赤に充血していたからだ。

Sさんが席に着くとMさんは追いかけて行き「Sさん、ごめんね」と言った。

Sさんは机にうっつぶし「Mさん、ごめんね」と小さな声で言った。

他にきていた数人の女の子が見る中、Mさんは「え?」っとケンヂの方に振り返った。

目をそらすケンヂをみてMさんは状況がわからないまま「ごめん?」っと言った。

ケンヂは「Mさん・・ごめん。お、おれ、Sさんのことが本当に好きみたいなんだ・・・・だからMさんとは友だちとしてしか付き合えない」と言った。

他の女の子が、きゃーと言うのが聞こえた。

Mさんは自分の席に座り、机にうつ伏した・・・そして静かに泣き始めた・・・・

Sさんもうつ伏したまままた泣いていた・・・

他の女の子達は固まっていた。

どうしていいのかわからないままケンヂは自分の席に座り、重くガンガンする頭を足れた・・・

ケンヂは消えて無くなりたかった・・・どうすることも出来なかった・・・

中に入る穴もない・・・

異様な雰囲気の教室に次々と登校してくる生徒が入ってきて、瞬く間に話はクラス中に広まった。

更に予期せぬことに、他にも2人泣き出した子がいたのだ。

他にもケンヂのことを思っていた女の子がいたのだった。

ケンヂは1日に4人の女の子を泣かせてしまった・・・・

先生も教室に入り、異常な状況に気づき、何があったのかきいたりしていたが、ケンヂの頭には何も入ってこなかった。タダ呆然として、その後のことは覚えてなかった。

 

 

慰霊執行委員の集まりで一緒だったMさんに話しかけたけど、口をきいてくれなかった。

明るかったMさんにから笑顔が消えてしまった・・・

Sさんとも上手くしゃべれず交換日記も終わってしまっていた。

 

クラスメートからしばらくからかわれたり文句を言われたりしたけど、すぐに暑く長い夏休みが始まった。

 

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 慰霊祭の日Mさんは吹っ切れたようにちょっとだけ笑顔を見せてくれた。まだ無理があったが、時間が解決してくれそうだった。ケンヂはMさんより上手に笑って見せた。

慰霊祭が終わったあとSさんと話をして、クラブのない日に逢えるように約束をした。

 

夏休みは充実していた。一緒にプールに行ったり、宮島花火大会を見に行ったり、公園でお互いに読んだ本の話をしたり、交換日記にお互いが書いていたようなことを直接話せるようになった。

Sさんはすこし大きな声・・普通に話せるようになった。相手の顔を見て笑えるようになった。すねたりちょっと怒ったりできるようになった。

手をつないでいっぱいドキドキした・・・

夏休みが終わった後、学校で明るく話せるようになったSさんを見て、皆びっくりしていた。

Mさんとも徐々に普通に話せるようになった。

MさんとSさんはとても仲の良い友だちになった。

 

 

その年の冬、ケンヂはすごく楽しく過ごしていたが長くは続かなかった。

Sさんは親の転勤で広島に来ていたのだが、地元の兵庫県神戸市に戻ることになった。

引越しの2週間前ケンヂはその話を知った。突然の別れにケンヂは打ちのめされた。

中学生にはどうにも出来ないことだった。

 

別れの朝、ケンヂとMさんはSさんの見送りに言った。

Sさんは真っ赤な目からぽろぽろ涙をこぼし、Mさんに

「ケンヂくんのことよろしくお願いします」と言った。

Mさんも泣いていた。

ケンヂは別世界のことのように眺め、気の利いた言葉を掛けてあげることも出来なかった。

Sさんと両親を乗せたタクシーが動き出した・・・

ケンヂはあわてて手を振った・・・

タクシーがみえなくなるとMさんはしゃがみこんで泣き出した。

Mさんに「泣かないで・・」と言ったが、ケンヂの目からすでにあふれ出ていた涙は止まらなかった・・・